~定性×定量の学習データを授業に生かす指導モデルの構築~
和歌山大学教職大学院 福永准教授による研究発表

和歌山県和歌山市活用レポート(前編)
和歌山県和歌山市活用レポート(前編)
 2025年度和歌山大学教育学部 共同研究事業成果報告会において、和歌山大学教職大学院の福永准教授より、和歌山市で導入が進められている「ラインズeライブラリ」と、振り返りAI機能を搭載した授業支援システムを活用し、「学力層に着目した教育データ利活用モデルの構築」をテーマとした研究成果が報告されました。
 活用レポート(前編)の本記事では、その成果報告の内容を紹介し、活用レポート(後編)では、研究協力校である和歌山市立松江小学校の1年生と4年生の担任の先生から伺った、ラインズeライブラリの活用の様子やインタビュー内容を紹介します。
学年 小学校、小1、小4、
教科・単元 算数・数学、
利用画面 授業、授業・導入、授業・展開、授業・まとめ、授業準備、帯時間、
内容 デジタルドリル自由学習プリント確認テスト自動個別課題教材指定学習・一斉学習

1.問題提起:和歌山県における学力格差とICT活用格差の現状

▲2025年度和歌山大学教育学部 共同研究事業成果報告会にて福永准教授が登壇されている様子
 福永准教授の研究発表は、和歌山県内に見られる教育課題の現状整理から始まります。
 第一の課題として、和歌山県では、全国平均と比較して学力低位層の児童が多い傾向があり、学校ごとにみても学力差が存在していると示されました。
 第二の課題として示されたのが、ICTの活用格差です。端末や学習ツールの整備が進む一方で、学校や学級によって活用の度合いには差があり、その差が縮まるどころか「どんどん広がっている」という問題意識が共有されました。
 ICTを日常的に使える教室と、うまく使い切れていない教室との差が時間とともに積み重なり、結果として学びの機会差につながるのではないかと示唆されました。
 また、算数の基本的な計算が定着していないこと、ひらがなの読み取りが苦手なこと、文章問題などで学習低位層の児童がつまずく傾向にあると触れられていました。そして、学級内に多様な学力層が混在する中で、全員を同じペースで指導することの限界が明らかになり、児童の思考やつまずきを小刻みに捉えて支援する必要性が強調されました。

2.教育データ活用の視点:校務DX計画と個別最適な学び

▲教育データについて(福永准教授の研究発表より)
 続いて、教育データ利活用の考え方について説明がありました。「教育データの利活用に係る論点整理」から学習状況を可視化し、個別最適な学びと指導を実現するためのデータ活用の重要性について語られました。
 福永准教授は、児童の学びをより深く理解するためには、定量データと定性データの双方が重要であると述べられました。
 定量データは学習状況を俯瞰(ふかん)的に把握でき、定性データはつまずきの背景や思考の過程を丁寧に捉えることができます。これらを組み合わせることで、「誰が・どの単元でどのように学んでいるか・思考しているか」を多面的に理解でき、児童の学びの実態により的確に迫ることができるという考えが示されました。

3.研究の中核:学習ログと思考過程を掛け合わせた指導モデル

 本研究の中心的な問いは、「学校で導入しているツールの学習データを使って、教員の指導モデルを構築できないか」というものでした。具体的には、
・ラインズeライブラリによる学習ログ(定量的データ)
・授業支援システムによる思考過程や成果物(定性的データ)

 この二つを掛け合わせることで、学力層に応じた意図的な指導の使い分けを可能にするモデルの構築を目指しました。
 発達段階や端末操作スキルの違いを踏まえ、学年別に異なる視点でデータ活用を検討するため協力校として、和歌山市立松江小学校の1年生と4年生が研究に協力しました。
▲教師側で確認できる学習ログを生かした指導モデルの構築について(福永准教授の研究発表より)

4.研究の流れ:三段階での検証

 研究は、次の三段階で進められました。
Phase1.事前調査と課題抽出
Phase2.指導モデルの試行
Phase3.児童への質問紙調査および教員インタビュー

 現場の課題を起点とし、研究のための研究に終わらせず、授業改善に直結させる構成となっている点が特徴です。

5.1年生の実践:端末操作トラブルを解決するスタートカリキュラム構築と実践

 1年生では、端末導入初期に多くの操作トラブルが発生しました。 ログインできない、操作方法が分からないといった状況が重なり、教室が混乱する場面も見られました。小学1年生の端末活用の難しさについて福永准教授から説明がなされた際、発表を聞く教員の多くが大きくうなずかれており、共感を呼んでいました。こうした課題に対して実施されたのが、端末スタートアップカリキュラムです。 具体的には、
①ログイン方法の資料活用(和歌山市教委提供)
②上級生(4年生)と一緒にログインを行う
③学習eポータルを活用した、毎朝の健康観察
④授業支援[OS4.1]システムを活用した「端末活用トレーニング」を3回実施
⑤「お絵描き」を上級生(4年生)と実施

という内容です。
 その結果、④に記載のトレーニングまでで、ほぼ全員が基本操作スキルを身につけたとのことでした。

 端末活用トレーニング中、担任の先生は教室の電子黒板に児童の端末の様子を表示し(下図)、サポートが必要な児童を把握できる環境のもと、タイミングを見て介入し、すでにスキルを習得している児童に対しては、未習得の児童の操作をサポートするよう、指導者画面を見ながら的確な指示をだしていたとのことでした。
 端末活用トレーニングを経て、操作で悩む児童がいなくなったことで、教員は端末対応に追われることなく、学習状況の見取りに集中できるようになりました。また、重要な導入ツールが「当たり前に使える」状態となり、ラインズeライブラリの学習にもしっかり向き合えるようになったとのことでした。
▲授業支援システムの児童の画面の様子を一覧できる機能でつまずきを把握(福永准教授の研究発表より)
▲一年生が作品鑑賞を授業支援システム上で行い、クラスメートの作品にいいねやコメントを送りあっている様子(福永准教授の研究発表より)

6.4年生の実践:学習の質を高める取り組み

 4年生では、研究が始まった当初は、ラインズeライブラリの発展レベルの問題になると、あきらめたりする様子や、思考が止まってしまう、先生の指示を待つといった、学習の粘り強さや主体的に学ぶ姿勢が事前課題として挙げられました。

取り組み① 振り返りの質の向上
 授業支援システムの振り返りAI分析機能を活用することで、児童が振り返りを丁寧に書けるようになり、自分の学びを言語化する力が育ったとのことでした。
▲授業支援システムの「振り返りAI分析」で児童の振り返りの質が多面的に評価されている様子。振り返りの質が向上したことで児童の学び方が変わったとのこと(福永准教授の研究発表より)
 
取り組み②「黒板貯金」による学びの可視化
 児童が板書を撮影し、自分が大切だと思った部分に書き込みを加え、授業支援システムで共有する「黒板貯金」の取り組みが紹介されました。他者の視点を参照することで新たな気づきが生まれ、学びが深まったことが報告されました。
▲黒板貯金の様子(福永准教授の研究発表より)

7.まとめ:ICTと見取りの融合が可能にする新たな指導

 実践を通して、次のような変化が見られたと報告がありました。
1年生:導入ツールが日常的に使えるようになった。ラインズeライブラリでの学習に主体的に取り組めるようになった。
4年生:よく考えて取り組む姿勢が育ち、学びの質が高まった。
 最後に福永准教授は、「児童を詳細に見取りたいという教員の思いと、情報通信技術が融合することで、これまでできなかった指導が可能になる」と述べ、定量データと定性データを組み合わせた指導の可能性を強調し発表を終えられました。

1年生と4年生の具体的なラインズeライブラリの活用については活用レポート(後半)でご紹介します。

和歌山県和歌山市活用レポート(後編)はこちら
本記事の情報は取材時(2025年度)のものです。